コラム

リップル社勝訴でも、XRPが前途多難な理由

リップル社勝訴でも、XRPが前途多難な理由

2020年12月から続いていた米国証券取引委員会(SEC)とリップル社の訴訟は、2023年7月に大きな節目を迎えました。ニューヨーク南地区連邦地方裁判所は、リップル社が機関投資家へXRPを直接販売した行為が証券法違反だと認めた一方、取引所を通じた販売や関連企業への無償配布は適法であり、XRP自体は証券ではないと判断したのです。

この判決はリップル社の一部勝訴と受け止められ、XRP価格は1日で100%近い急騰となりました。判決はまだ確定したものではありませんが、XRP自体が証券と認定される「最悪の事態」は回避できたことで、リップル社とXRPは法的問題をひとまずクリアしたと言えるかもしれません。

それでは、これからXRPの価格は上昇が見込めるのでしょうか。残念ながら、状況はそれほど単純ではありません。その証拠に、2024年3月現在のXRP価格は0.64ドル(約96円)と、2018年1月に付けた史上最高値の約6分の1に過ぎず、実に6年以上最高値を更新できていないのです。

同じ6年の間に、ビットコインの価格が3倍以上になっていることと比べると、XRPの普及は大きく立ち遅れていると言えます。SECがリップル社を提訴する直前の2020年12月には、2022年〜2023年にXRPが75ドル(当時のレートで約7800円)に到達するという大胆な予想まで飛び出していたことを考えれば、現在の価格は想定外の低さでしょう。

XRPは国際送金に特化した仮想通貨(暗号資産)であり、国際送金のブリッジ通貨としての役割が唯一の利用価値です。つまり、XRPを送金に使うにはXRPが必要という、送金ネットワークへの需要が価値を生み出していると考えることができます。短期的には様々な要因(例えばリップル社の勝訴)で価格が乱高下するかもしれませんが、国際送金の手段として普及しない限り、中長期的に価格が上昇することは見込めません。

それでは、XRPによる国際送金は普及するのでしょうか。リップル社やXRPの支持者は、手数料の安さ、送金時間の速さ、処理能力の高さがライバルに対する優位性だと主張します。しかし、XRPは仮想通貨としては知名度が高いものの、国際送金の手段として使われているとはお世辞にも言えません。

確かに、リップル社は300を超える企業と提携を結び、その中にはXRPを導入した金融機関も多数含まれています。しかし、それらの大半は中小の送金業者であり、国際送金の「主役」である大手銀行に採用された事例は存在しません。採用した企業の間でも、多くは実証実験など一時的な導入にとどまっており、継続的に顧客へ提供するサービスとなっている事例は少数です。

XRPが国際送金の手段として優れた性質を持っているにも関わらず、金融機関による利用が進まないのはなぜでしょうか。本記事では、前提知識としてXRPの概要を確認した上で、XRPの普及と価格上昇を妨げている5つの問題を考察します。

前提知識

本題に入る前に、前提知識として「リップル社」と「XRP」という2つの単語の意味と、ブリッジ通貨としてのXRPの役割を確認しておきましょう。

リップル社

リップル社(正式名称:Ripple Labs/リップル・ラボ)は、アメリカに本拠を置くフィンテック企業であり、XRPの開発と普及活動を中心に担っています。

XRP

XRPは、国際送金に特化した仮想通貨(暗号資産/トークン)であり、国際送金の際に「ブリッジ通貨」として使われることを目指しています。日本では「リップル」と呼ばれることも多いですが、本記事では混同を避けるため、開発企業をリップル社、トークンをXRPと区別して呼称します。

総発行量は1000億XRPで、そのすべてが当初から発行済みです。市場に流通するすべてのXRPは、リップル社とその関係者から供給されたものであり、リップル社は現在も全XRPの約半数を保有しています。また、全XRPはゼロコストで発行されたものであり、リップル社とその関係者が独占的かつ無償で入手しました。

そして、リップル社は保有するXRPを投資家へ継続的に販売しており、これは同社の主力事業となっています。SECがリップル社を提訴する前の2020年3月、ガーリングハウスCEOはインタビューで、XRPを販売しなければ利益を出すことができないと認めています。

リップル社はXRPの優位性や将来性を再三に渡り宣伝してきた一方、XRPはオープンソースプロジェクトであり、リップル社はXRPやその保有者に対して何ら義務を負っていないと宣言しています。また、自社がXRPの発行体であることを明確に否定しており、XRPはリップル社が設立される前から存在し、元の保有者から無償で譲り受けたのだと主張しています。

ブリッジ通貨としての役割

XRPの役割は、国際送金の際に「ブリッジ通貨」として用いることです。なお、XRPのネットワーク上でステーブルコインの発行を行うという計画もあったようですが、現時点で実用化されている事例は存在しません。そのため、XRPの唯一のユースケースは国際送金だと考えて良いでしょう。

具体例として、日本のAさんがフィリピンのBさんへ、XRPを使って送金をする場合の手順を簡単に説明します。ここで、Aさんが送るのは日本円であり、Bさんが受け取るのはフィリピンペソです。また、AさんとBさんが使う銀行を、それぞれX銀行とY銀行とします。

  1. Aさんは、X銀行に送金先を伝え、送金資金を日本円で支払う
  2. X銀行は、日本の暗号資産取引所で日本円をXRPへ交換する
  3. X銀行は、Y銀行へXRPを送り、Bさん宛の送金であると伝える
  4. Y銀行は、フィリピンの取引所でXRPをフィリピンペソへ交換する
  5. Y銀行は、フィリピンペソをBさんへ支払う

送金する資金でXRPを購入し、着金後はそれを売却して受取人へ支払いをするため、送金の橋渡しをするという意味で「ブリッジ通貨」と呼ばれます。XRPの送金自体は3〜4秒で完了するとされ、手数料は1円未満であり、1秒間に3400件の送金を処理できるとされています。従来の国際送金には数日かかることもあり、手数料も数千円程度であることを考えれば、目覚ましい進歩だと言えるでしょう。

ただし、XRPによる国際送金を利用できるのは銀行などの金融機関に限られ、個人や一般企業は金融機関を通じて使えるにとどまります。したがって、個人投資家がいくらXRPを保有していても自分で使うことはできず、金融機関が買い取ってくれるのを期待するしかありません。

問題1:1円未満では済まない手数料

ここからは、XRPの普及と価格上昇を妨げている問題を考えていきます。まず、XRPの優位性の1つとして、送金手数料の安さが主張されます。確かに、XRPの送金にかかる手数料は1円未満とされ、従来の国際送金にかかっていた数千円とは雲泥の差です。ただし、この1円未満というのは「XRP自体を送金」する部分だけの手数料であり、それ以外にかかる費用を忘れてはなりません。

まず、XRPを直接利用できるのは金融機関に限られることから、個人や一般企業は金融機関を通じて利用することになります。そして、金融機関はシステム開発やコンプライアンスなどに費用がかかり、送金事業で利益を捻出する必要もあるため、独自の手数料を徴収することが考えられます。しかも、この手数料は送金元・送金先の両方で取られる可能性があります。

次に、XRPを売買するにも手数料がかかります。XRPの売買は暗号資産取引所で行うことが一般的ですが、取引所は利益を得るために取引手数料を徴収します。また、XRPの流動性を確保するためにはマーケットメイカーが欠かせませんが、彼らもスプレッド(売値と買値の差額)という形で手数料を取っています。売買手数料やスプレッドを支払うのは金融機関の側ですが、その費用は顧客に転嫁されるでしょう。

さらに、XRPの価格をヘッジするコストも必要になるかもしれません。なぜなら、送金している途中でXRP価格が下落すると、その下落分が金融機関の損失になってしまうからです。XRP経由の送金が1分未満で完了することを踏まえると、この費用は高額にはならないかもしれませんが、送金額が多い場合には不可欠になるでしょう。

したがって、実際にXRPで国際送金をしようとした場合、実際にかかる手数料が1円未満で足りるとは到底考えられません。①送金元金融機関の手数料、②送金先金融機関の手数料、③XRP購入時の取引手数料、⑤XRP売却時の取引手数料、⑤XRP売買時のスプレッド、⑥XRPの価格ヘッジコストなどをすべて足せば、従来の国際送金と同程度のコストがかかる可能性すらあります。

問題2:XRPの価格乖離

XRPをブリッジ通貨として使うことは、XRPが世界中どこでも同じ値段で売買できるという前提の下に成り立っています。なぜなら、XRP価格が高い国と安い国が存在した場合、前者から後者へ送金すると、その差額分が損失になってしまうからです。しかし、取引所によって価格が乖離する現象は現在でも頻繁に起こっており、XRPによる国際送金がこれに拍車をかける可能性まであるのです。

例として、日本からフィリピンへの国際送金が急増した場合を考えます。この時、日本の取引所では送金のためにXRPの買いが殺到し、一時的に価格が上昇します。一方、フィリピンの取引所ではXRPをペソに換える売りが集中し、一時的に価格が下落します。この結果、日本でのXRP価格は第三国よりも高く、逆にフィリピンでの価格は第三国より安い状態になります。

この状態では、XRPを利用した「日本から海外へ」または「海外からフィリピンへ」の送金は停止するしかありません。日本の金融機関はXRPを高値でしか購入できず、それを国外の取引所で売れば損失になるからです。同様に、外国からフィリピンへ送金する場合も、フィリピンでXRPを売れば損になります。重要なのは、日本とフィリピンの間で発生した問題が、他の国との国際送金にまで波及していることです。

もちろん、こうした乖離は一時的なもので、通常なら短時間で価格は元に戻るでしょう。なぜなら、フィリピンでXRPを購入して、日本で売れば利益が出ることになり、資金力のある投資家がアービトラージ(裁定取引)を狙うからです。しかし、アービトラージにはXRP以外の方法で国際送金をする必要があり、結局は従来の送金システムに頼ることになります。

価格乖離は日常的に発生し得ることから、XRPを使う金融機関は全世界の取引所の価格を常に監視する必要があり、乖離が生じれば送金業務は一時停止しなければなりません。これは、金融機関にとって大きな負担になると考えられます。

問題3:ブリッジ通貨はXRPに限らない

経済学においては、①価値貯蔵機能、②交換機能、③価値尺度機能の3つを兼ね備えた財が、通貨として機能するとされます。しかし、XRPのようなブリッジ通貨に必要なのは、この内の「②交換機能」だけです。ブリッジ通貨に特別な機能は必要ないため、ビットコイン、他のアルトコイン、ステーブルコイン、中央銀行デジタル通貨(CBDC)など、大半の通貨はブリッジ通貨としても利用できることになります。

それでは、XRPをブリッジ通貨として使うメリットは何でしょうか。XRPの特長として、送金手数料は0.1円未満、送金時間は3〜4秒、1秒間に処理できる送金件数(TPS)は3400件という機能性が主張されます。これに対し、ビットコインをブロックチェーン上(オンチェーン)で送金する場合、手数料は数百円程度、時間は10分〜1時間、TPSは3〜7件程度であり、単純に比較するとXRPの優位性は明確です。

確かに、XRPが脚光を浴びていた2017年頃は、ビットコインの送金手数料が高騰していたこともあり、こうした特長は唯一無二だったかもしれません。しかし、それから6年余りが経過する間、XRPは訴訟以外に大きな進展が見られない一方、ビットコインや他のアルトコインは大きな飛躍を遂げていたのです。

まず、ビットコインをブロックチェーンの外部(オフチェーン)で取引するプロトコル「ライトニングネットワーク(Lightning Network)」が実用化されました。これを使えば、送金手数料がXRPと同程度で済むのはもちろん、送金時間は1秒未満とXRPより高速であり、TPSは100万件以上に拡張することも可能です。つまり、ライトニングネットワーク上のビットコインと比較すると、XRPをブリッジ通貨として用いる優位性はなくなったと言えます。

さらに、ビットコインはXRPより時価総額・取引量ともに多く、扱っている取引所の数も上であることから、前述した価格乖離のリスクもXRPより低いでしょう。しかも、ビットコインには規制を適用する「管理者」がいないため、規制によって取引が制限されるリスクも低いと言えます。事実、SECはXRPを含めた多数の仮想通貨を「証券」だと主張する一方、ビットコインだけは「コモディティ」だと認めているのです。

ライトニングネットワークはオフチェーンで送金を処理するプロトコルですが、ソラナ(Solana/SOL)のようにオンチェーンの処理能力を売りにしたアルトコインも現れています。ソラナの送金手数料と送金時間はXRPと同程度であり、TPSは6万5000件とXRPを上回ります。

ソラナ自体をブリッジ通貨として使うことも可能ですが、ソラナのブロックチェーン上でステーブルコインを利用することもできます。例えば、ドル建てのステーブルコイン「テザー(Tether/USDT)」は、実際にソラナ上で発行されています。ステーブルコインには規制の不透明さが残っているものの、価格変動のリスクはありません。

ソラナはビットコインと比べると中央集権的であり、SECはXRPと同様に有価証券だと主張していることを考えると、価値貯蔵手段としてビットコインと競合することは難しいでしょう。それでも、リップル社が総発行量の約半分を握っているXRPよりは分散化され、送金システムとしての機能もXRPより優れているため、国際送金の役割を置き換える可能性は十分にあります。

以上を踏まえ、XRP、ライトニングネットワーク上のビットコイン(BTC/LN)、ソラナ上のテザー(SOL/USDT)の3つを「ブリッジ通貨」として比較したものを以下の表に示します。こうして比較すると、2017年当時に宣伝されていたXRPの優位性が、2024年現在では消え失せてしまったことが分かります。

  XRP BTC/LN SOL/USDT
送金時間
3〜4秒

1秒未満

数秒
送金手数料
1円未満

1円未満

1円未満
処理能力
(TPS)
×
3,400

100万〜

65,000
取引量
価格変動 ×
規制リスク ×

問題4:XRPの開発は持続可能か

リップル社は、XRPは独立したオープンソースプロジェクトであり、同社はXRPやその保有者に何ら義務を負っていないと宣言しています。同社がこのような主張を続ける理由は、XRPが証券と認定されるリスクを減らすためだと言えるでしょう。しかし、それが本当だと考える者は少数派かもしれません。

その証拠に、リップル社が勝訴した直後にXRPは急騰しました。その後も、同社に有利な動きが報じられる度に、XRPが(一時的ではありますが)上昇するという傾向があります。同社の主張とは裏腹に、市場はXRPを「リップル社の製品」だと捉えているようです。そして、XRPの開発がリップル社に依存していると仮定すると、重要な課題が見えてきます。

現在、リップル社はXRPの約半数を保有し、それを段階的に売却することで利益を得ています。つまり、同社がXRPの開発や普及活動を中心に担ってきたのは、XRP価格の上昇=XRPの販売益の増加という経済的インセンティブがあるからだと言えます。それでは、同社がXRPをすべて売り払った後でも、その開発を続けてくれるのでしょうか。

XRPの送金手数料はリップル社の収入になるものではないため、XRPを使った国際送金がどんなに増えたとしても、そこから利益を得ることはできません。リップル社はXRPの利用から利益を得るどころか、逆にXRPを導入した企業に金銭的支援をしているぐらいです。同社が営利企業である以上、利益を生み出さない事業を継続すると考えるのは非現実的です。

もちろん、リップル社がXRPの開発から撤退したとしても、有志の第三者が無償で開発を引き継いでくれる可能性はあります。しかし、オープンソースや分散型を謳っていた仮想通貨であっても、中心的な企業が撤退した途端に開発が止まってしまい、深刻な脆弱性が放置されているという事例は多く存在するのです。XRPだけが唯一の例外であり、誰かが開発を続けてくれると期待することは難しいでしょう。

以上を踏まえれば、XRPの開発が持続可能だと考えるのは「希望的観測」に過ぎません。仮にXRPの開発が立ち行かなくなれば、送金や保管すら安全に行うことはできなくなり、通貨として機能しなくなる恐れがあります。XRPの持続可能性に疑問が残されている以上、金融機関が中長期的な利用を計画して導入するとは考えられません。

問題5:XRPが普及しても、大幅な価格上昇は見込めない

ここまで取り上げた4つの問題は、いずれもXRPの利用拡大を妨げている要因でした。仮にこれらの問題がすべて解決され、国際送金の手段としてXRPが普及したとすれば、価格の大幅な上昇が見込めるのでしょうか。

国際送金にXRPが利用されるようになれば、金融機関は送金の度にXRPを購入する必要があるため、単純に考えればXRPの価格上昇圧力になります。しかし、XRPはあくまで「ブリッジ通貨」であることを忘れてはいけません。金融機関がXRPを購入しても、それが相手の金融機関に着金するとすぐに売却されてしまいます。

さらに、XRPの送金が数秒で完了するということは、金融機関が保有する時間は長くても1分程度に過ぎないことになります。XRPを長期間保有すれば、不必要な価格変動のリスクを負う上に、会計上の扱いも複雑になるからです。つまり、購入と売却が延々と繰り返されるだけで、XRPの買い圧力と売り圧力は均衡することになり、これだけでは価格上昇は見込めません。

ただし、XRPが国際送金の手段として普及しているということは、短時間に多額の送金を処理できる必要があります。例えば、1度の送金で10億ドルを処理する必要があるなら、XRPの流通額は10億ドル以上でなければなりません。XRPの流通額が10億ドルを下回る場合、金融機関はXRPを奪い合って価格競争をすることになり、市場原理によって価格が押し上げられます。

したがって、XRPによる国際送金が普及しているということは、XRPの流通額は「1度に送金される金額」以上である必然性が生じます。そして、市場に流通するのは総発行量(1000億XRP)の一部であるため、XRPの時価総額は「1度に送金される金額」の10倍〜100倍程度が必要です。それでは、この「1度の送金される金額」とは具体的にいくらなのでしょうか。

国際送金の市場規模とXRPの処理能力から、全世界の国際送金に必要なXRP価格を試算してみましょう。まず、国際送金の市場規模(送金金額の合計)は2027年に250兆ドルになるという予想があり、今回の試算でもこの金額を用います。ただし、全世界の送金がすべてXRPに移行するとは考えにくいため、半分に当たる「125兆ドル」がXRP経由で行われるようになると仮定します。

また、XRP経由の送金にかかる時間は「1分」と設定します。すなわち、送金元の金融機関がXRPを購入してから、送金先の金融機関が売却するまでの間隔が1分間ということです。なお、XRPの送金自体は3〜4秒で完了するとされますが、取引所での売買や勘定システムへの反映などにかかる時間を考慮しています。

最初に、世界の送金需要を1分当たりにします。1年は「525,600分」であるため…

125,000,000,000,000 ÷ 525,600 ≒ 238,000,000

1分間に約2.38億ドルの送金が行われることが分かります。そして、これは「1度に送金される金額」と等価だと言えます。なぜなら、市場に流通するXRPが2.38億ドル以上あれば、1分毎に購入と売却を繰り返すことで、国際送金の需要を満たせるからです。逆に、市場に流通するXRPがこの2.38億ドルを下回ると、送金需要を満たすことができなくなります。

ただし、送金は毎分均等に行われる訳ではないため、1分間に平均の「10倍」の送金を処理できる必要があるとします。さらに、全XRPが同時に市場に流通するとは考えにくいため、XRPの時価総額は市場に流通する「10倍」が必要と仮定します。追加の条件を考慮すると、送金需要を満たすことができるXRPの時価総額は…

238,000,000 × 10 × 10 = 23,800,000,000

これをXRPの総発行量「1000億」で割ると…

23,800,000,000 ÷ 100,000,000,000 = 0.238

つまり、全世界の国際送金の半分がXRPに移行したとしても、その需要を満たすのに必要となる価格はわずか「0.24ドル」(約36円)です。これは、記事執筆時点の価格の半分にも届きません。ただし、これは理論上の「必要最低価格」とも言うべきで、必ずXRPがこの価格になるという訳ではありません。

簡単に言えば、XRPの価格が0.24ドルを下回ると、国際送金のためのXRPが不足する状態になり、金融機関はXRPを確保するために価格競争を始め、価格は押し上げられます。一方、XRPが0.24ドル以上であれば、現在の価格で送金需要を満たすことができるため、金融機関はXRPのために価格競争をする必要がなくなり、価格は上がらなくなるというメカニズムです。

XRPの価値は国際送金の需要によって生まれるという前提を踏まえると、XRPの市場価格も国際送金の需要によって形成されると考えるのが妥当です。短期的には様々な要因で価格が乱高下するでしょうが、長期的には本来の価値へ収束していくと考えられます。すなわち、XRPによる国際送金が全世界へ普及したとしても、価格が現在の数百倍、数千倍になるようなことは望めないのです。

5. まとめ

本記事では、XRPの普及と価格上昇を妨げている5つの問題について考察を行いました。XRPを使った国際送金は、コストの大幅な削減が可能になると宣伝されているものの、実際には手数料の削減効果は限定的であり、価格乖離という大きなデメリットも残されています。

現在では、ビットコインのライトニングネットワークが実用化されたことや、高速・低コストを売りにしたアルトコインが出現したことから、ブリッジ通貨としてのXRPの地位は揺らいでいます。XRP自体の持続可能性にも疑問が残ることも考慮すると、XRPが国際送金の手段として普及することは極めて難しいでしょう。

また、XRPによる国際送金が普及したとしても、それが必ずしもXRPの価格上昇にはつながらないことも分かりました。なぜなら、XRPは送金の際に一時的に使われる「ブリッジ通貨」に過ぎず、長期に渡って保有する性質のものではないからです。試算では、XRPが全世界の国際送金の半分で利用されるようになったとしても、現在の価格の半分以下で送金需要を満たすことができると確認されました。

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