ビットコインの基本

ビットコインの半減期

ビットコインの半減期

ビットコインには「半減期」と呼ばれるメカニズムが組み込まれており、約4年に1回の頻度で半減期が訪れるように設計されています。簡単に言えば、半減期とはビットコインの新規供給量が半分に減少するイベントです。半減期はビットコインの希少性を担保する仕組みですが、結果的には価格にも大きな影響を与えるイベントになっています。

半減期の仕組み

通貨が「価値の貯蔵手段」として機能するためには、希少性が不可欠です。そのため、ビットコインには希少性を担保する2つの要素が含まれています。1つ目の要素は、すべてのコインがマイニングによってのみ生成されることです。

具体的には、ブロックチェーンに新しいブロックが追加されるごとに新しいコインが生まれ、そのブロックをマイニングしたマイナー(マイニングをする参加者)へ対して「ブロック報酬」として付与されます。マイニングは誰でも自由に参加することができ、すべての参加者が同じ条件で報酬を得られる仕組みになっています。

ビットコインのマイニングには、特殊なコンピューターや電気代など多大なコストが必要です。したがって、誰かが無償でコインを取得したり、優先的にコインの割り当てを受けるようなことはありません。これは、政府・中央銀行がゼロコストで発行できる法定通貨や、事実上の発行体が存在する大半のアルトコインとの根本的な違いだと言えます。

2つ目の要素は、供給量に2100万BTCという厳格な上限があることです。発行上限はアルゴリズムによって決められているため、ビットコインの開発者、マイナー、そしてサトシ・ナカモトでさえ変更することはできません。供給量が有限であるということは、最終的にはブロック報酬をゼロにする必要があります。

しかし、ビットコインの新規発行がある日突然ゼロになってしまうと、市場にもマイナーにも大きな混乱を招きかねません。そこで、ブロック報酬を4年ごとに減らしていき、100年以上かけて段階的にゼロにするようにしたのです。これを実現する仕組みこそが半減期です。

ビットコインは約4年毎に半減期を迎え、その度にブロック報酬が半減期前の半分に減少するようになっています。つまり、最初の半減期では当初の半分になり、2回目は当初の4分の1、3回目は当初の8分の1といった具合に減少することになります。また、その際にビットコインの最小単位である1サトシ(0.00000001BTC)未満の端数は切り捨てられます。

2009年1月にビットコインのブロックチェーンが稼働を開始した当初、ブロック報酬は1ブロックあたり50BTCとなっていました。最初の半減期は2012年11月にあり、1ブロックあたり25BTCに減少しました。2回目の半減期は2016年7月、3回目は2020年5月、4回目は2024年4月にそれぞれあり、2024年6月現在は1ブロックあたり3.125BTCとなっています。

今後も半減期は続き、2136年頃には32回目の半減期でブロック報酬は1サトシになり、2140年頃の最後の半減期でゼロになることが予定されています。以下の表は、これまでの半減期(1〜4)の実績と、今後の半減期(5〜33)の予想をまとめたものです。

# 年月日 半減後のブロック報酬(BTC)
1 2012年11月29日 25
2 2016年07月10日 12.5
3 2020年05月12日 6.25
4 2024年04月20日 3.125
5 2028年頃 1.5625
6 2032年頃 0.78125
7 2036年頃 0.390625
8 2040年頃 0.1953125
31 2132年頃 0.00000002
32 2136年頃 0.00000001
33 2140年頃 0

なお、ビットコインの発行上限と同様に、半減期のメカニズムもアルゴリズムによって決められています。つまり、誰かが恣意的に半減期の時期や頻度を変更したり、半減期の仕組みを改変して供給量を増やすことはできません。

半減期はいつ起こるのか

ビットコインの半減期が起こるのは「4年に1回」だと前述しましたが、正確にはブロックチェーンで21万ブロックがマイニングされるごとです。ビットコインでブロックが生成される間隔は約10分であるため、21万ブロックがマイニングされるのに要する期間は「10分×21万」で4年になるという計算になっています。

ただし、ブロックが生成される間隔は正確に10分と決まっているのではなく、平均して10分になるようにマイニングの難易度が調整される仕組みになっています。難易度調整は2016ブロック(約2週間)ごとであるため、ハッシュレート(マイニングに投入される計算能力)が持続的に増加している状況では、ブロックの生成間隔は10分より短くなります。

こうした理由から、半減期の間隔が正確に4年になることはなく、過去3回の半減期は4年未満の期間で到来しています。しかし、将来のハッシュレートを予想することはできないため、今後の半減期の正確な日時を特定することはできません

半減期がマイニングに与える影響

ビットコインの半減期は、ブロック報酬を段階的に減少させ、最終的にはゼロにする仕組みです。しかし、ブロック報酬はマイナーの収益であるため、半減期はマイナーの収益性を悪化させるイベントでもあります。

マイナーが得られる報酬は、①ブロック報酬と②他のユーザーが支払った送金手数料の合計です。2024年6月現在の内訳を見ると、ブロック報酬が3.125BTCなのに対し、送金手数料は0.2〜0.5BTC程度です。つまり、マイナーの収益の9割近くはブロック報酬だということになります。

半減期によってマイナーの収益が減少すれば、マイニングから撤退する事業者が増え、ハッシュレートが低下した結果、ビットコインのセキュリティが脆弱になるという懸念があります。しかし、過去4回の半減期においては、こうした懸念は杞憂に終わっています。

2012年11月に起こった最初の半減期の直前、ビットコインのハッシュレートは約25TH/s(テラハッシュ毎秒)という規模に過ぎませんでした。ところが、2024年6月現在のハッシュレートは5億TH/sを超える規模となっています。すなわち、ブロック報酬が16分の1に減ったにも関わらず、ハッシュレートは2000万倍以上になっているのです。

こうした変化が起こった理由は、主に3つ考えられます。1つ目の理由は、ビットコインの価格が急上昇したことです。半減期によって「ビットコイン建て」の収益が半分程度に減ったとしても、4年の間にビットコインの価格が2倍以上なれば「法定通貨建て」の収益は増加します。

2つ目の理由は、マイニングに使われるコンピューターの処理能力が進歩したことです。例えば、2013年に発売された「Antminer S1」の消費電力は1TH/sあたり2000Wでしたが、2023年発売の「Antminer S21」はわずか17.5Wです。技術革新でコンピューターの処理効率が向上した結果、同じコストでも計算量を増やすことができた訳です。

3つ目の理由は、マイニングが「産業」として大規模化したことです。現在では、マイニングを事業とする上場企業が10社以上存在します。マイニングが大規模化したことで、事業者用の安い電力を利用できるなど「規模の経済」によってコストが下がりました。

それでは、こうした変化は今後の半減期でも継続するのでしょうか?まず、コンピューターの進歩やマイニングの大規模化については、今後も継続すると考えてよいでしょう。しかし、ビットコインの価格上昇が2140年まで継続し、4年ごとに価格が2倍以上になっていくと想定するのは困難です。

もっとも、半減期が繰り返される度に、ブロック報酬の減少数(減少するBTC数)は小さくなっていきます。例えば、最初の半減期ではブロック報酬が25BTC減少しました(50BTC→25BTC)が、8回目の半減期では0.1953125BTCしか減らない(0.390625BTC→0.1953125BTC)ことになります。

ここまで来ると、マイニングの収益に占めるブロック報酬の割合は小さくなり、他のユーザーが支払った送金手数料の方が収益を左右するようになります。そのため、7回目や8回目の半減期を通過すれば、半減期がマイニングに与える影響は軽微になっていくと考えられます。

半減期が価格に与える影響

半減期は、ビットコインの供給を減少させます。そして、すべての財の価格は需要と供給によって決まり、供給の減少は価格の上昇を招きます。ビットコインは過去に4回の半減期を経験していますが、直近の4回目を除く過去3回においては大幅な価格上昇とバブルを引き起こしているのです。

さらに驚くべきことに、半減期の年から3年後の年までの4年間の値動きは、過去3回とも著しく類似しているのです。具体的には、①価格上昇、②バブルの形成、③バブルの崩壊、④再評価と価格回復というサイクルが、半減期を境にして繰り返されました。1〜3回目の半減期について、4年間の値動きを簡単に振り返ってみましょう。

1回目(2012年〜2015年)

2012年の始めに5ドル(約380円)程度だった価格は、同年11月の最初の半減期には12ドル(約960円)まで上昇。翌年になっても価格は右肩上がりを続け、キプロスショックやシルクロード閉鎖でビットコインが注目を集めたことも相まって、相場はバブルの狂乱へ。2013年11月には、1,156ドル(約11万6000円)の最高値を記録します。

しかし、2014年2月に世界最大の取引所「マウントゴックス(Mt.GOX)」が破綻すると、多くのメディアがビットコインとマウントゴックスを同一視して事件を報じ、ビットコインのイメージは急速に悪化。2014年は1年を通じて価格は右肩下がりとなり、2015年1月には171ドル(約2万円)まで低迷することになりました。

「ビットコインはもう終わった」という声が多数派を占める中でも、その仕組みを解説する書籍やウェブサイトが増えたことで、ブロックチェーン技術が大きな注目を集めます。2015年に入るとビットコインを再評価する動きが広まり、年末には430ドル(約5万2000円)まで価格が回復しました。

2回目(2016年〜2019年)

430ドルで2016年をスタートすると、8月の半減期には649ドル(約6万7000円)まで上昇。半減期の直前・直後は冴えない値動きでしたが、11月頃からは価格が急上昇を始め、翌年1月にはマウントゴックス破綻前の最高値を更新します。その後はビットコインキャッシュの誕生やICOブームによる乱高下を経て、2017年12月には20,089ドル(約225万円)の最高値を記録します。

しかし、2018年1月に日本の仮想通貨取引所「コインチェック(Coincheck)」がハッキングを受け、580億円相当の仮想通貨NEM(ネム/XEM)が詐取される事件が発生。その後は、多額の資金を集めていたICOの大半が詐欺・失敗であったことも発覚します。2018年は一転して下落の年となり、12月には3,191ドル(約35万円)まで落ち込むことになりました。

価格が下落する中でも、取引所やICOの問題は中央集権的な管理によって引き起こされたものであり、管理者のいないビットコインはむしろ問題の「解決策」だという理解が少しずつ広まりました。2019年に入ると価格は回復傾向になり、7,194ドル(約80万円)で1年を終えます。

3回目(2020年〜2023年)

7,194ドルで2020年をスタートしますが、新型コロナウィルスの感染拡大による影響で一時4,106ドルまで急落。ところが2カ月ほどで価格はV字回復し、5月に8,804ドル(約95万円)で半減期を迎えます。一方、コロナ対策として世界中の国が大規模な金融緩和・財政出動に踏み切ると、その資金はビットコインにも流れ込みました。2020年12月にコインチェック事件前の最高値を更新しても勢いは衰えず、2021年11月には68,789ドル(約780万円)の最高値を記録します。

しかし、2022年に入ると状況は一変。5月に仮想通貨Terra(テラ/LUNA)の価格が暴落したのを皮切りに、6月にはレンディングサービスのCelsius(セルシウス)が顧客資金の引き出しを停止、11月には大手取引所FTXが破綻するという大事件が相次いで起こります。さらに、多くの国が大幅な利上げに踏み切ったこともマイナス要素となり、ビットコインは15,599ドル(約220万円)まで低迷することになりました。

それでも、2023年に入ると価格は回復傾向に。さらに6月、世界最大の資産運用会社ブラックロック(BlackRock)がビットコイン現物ETFの上場を申請すると、機関投資家による参入が増えるという期待が高まります。10月から価格は急上昇し、42,265ドル(約600万円)で2023年を終えました。なお、ブラックロックの現物ETFは2024年1月に承認・上場となっています。


過去3回の半減期について、半減期時点の価格、バブル相場時の最高値、バブルが崩壊した後の最安値を改めてまとめると、以下の表の通りになります。

期間 半減期時点 バブル最高値 バブル後最安値
2012年〜2015年 $12 $1,156 $171
2016年〜2019年 $649 $20,089 $3,191
2020年〜2023年 $8,804 $68,789 $15,599

2024年の半減期後はどうなるのか

ビットコインの相場を理解する上で、半減期は不可欠な要素です。1〜3回目の半減期においては、①価格上昇、②バブルの形成、③バブルの崩壊、④再評価と価格回復、というサイクルを4年ごとに繰り返しました。それでは、4回目となった2024年4月の半減期の後はどうなるのでしょうか?

もちろん、過去の出来事から将来を正確に予測することは不可能であり、以前に起こったサイクルが再び起きるという保証はありません。しかし、歴史上最も偉大な投資家の1人とされるジョン・テンプルトンは、投資において最も危険な言葉は「今回は違う(This time is different)」だという名言を残しています。

前述のように、ビットコインの半減期はアルゴリズムで決定され、中央集権的な管理者が恣意的に変更することはできません。半減期による新規供給の減少が引き金となって価格上昇が起きたとすれば、供給量の減少が「今回も同じ」である以上、相場だけが「今回は違う」と言うことはできないでしょう

ただし、2024年の半減期を境にしたサイクルは、過去のものより上昇率が穏やかになるかもしれません。その理由は、「半減期がマイニングに与える影響」で説明した通り、半減期が繰り返される度に、ブロック報酬の減少数が小さくなっていくためです。

事実、最初の半減期後には価格が100倍近くに暴騰したのに対し、2回目では約31倍、3回目では約8倍と、回数を重ねる度に上昇率は下がっています。2024年やそれ以降の半減期でも、価格上昇が期待できることに変わりはありませんが、半減期が相場に与える影響は徐々に低下していくと考えるべきでしょう。

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